いちごいちえ




優しく重ねられる唇に、背筋が震える。


瑠衣斗の想いが染み込んでくるようで、その温もりに溺れそうになる。



「…ダメだ」



……え?



唇の隙間から、小さく呟かれた言葉。


思わず目を開けて体を固めると、ゆっくりと重ねられた唇が離れていく。



「るぅ…?」



ダメ?って…何がダメ?


意味の分からないまま瑠衣斗を見つめていると、ガックリと瑠衣斗が頭を垂らす。



「えっ!?ちょ…っなんで?どうしたの」



「ダメだって…決心が鈍るだろう」



「決心?」



「……お前…小悪魔だな」



「は!?」




だいたい私は、瑠衣斗の言う決心とやらを知らない。


なのにそんな事を言われても、余計に訳が分からないだけだ。



ようやく顔を上げた瑠衣斗が、チラリと私を細めで見つめる。


何か言葉を考えているような表情から、今度は呆れたように溜め息を吐いた。



「俺に襲わせるつもりか」



「なっ、なんでそうなるの!?」



「ももの鈍感さは、俺の決心を揺すりすぎだ」



さすがの私にも、瑠衣斗の言いたい事が分かる。


勢いで何も考えずに飛び出してきてしまったけど、私は瑠衣斗を苦しめてしまっているようだ。



だってあの時は…そばに居たいって必死だったんだもん……。


なんて言ったら、また瑠衣斗の決心とやらを、鈍らせてしまいそうで言えなかった。
< 136 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop