いちごいちえ
「ま、いいよ。先シャワー浴びてくる」
「ちょっと…」
「夜は長いしな〜」
私の声を聞かずに、瑠衣斗が背中を向けてシャワーを浴びに行ってしまう。
熱くなる顔を抑える事もできないまま、扉の向こうに消える瑠衣斗の背中を見送る事しかできなかった。
チラリと見ると、ソファーには丸まったままピクリとも動かないももちゃん。
そんな姿を目に、ため息をついてももちゃんの横に腰を下ろす。
なんだかんだ、こうして見ると久しぶりに瑠衣斗のマンションへ来た気がする。
相変わらず、物が少なくて無駄がない部屋の景色は、少しだけ殺風景にも見えるが、やっぱり瑠衣斗らしいなとも思う。
最後にここに来たのは、いつだったかな……。
なんだか切なくなる思い出ばかりが蘇ってくるが、胸が熱くなる思い出もたくさんある。
背後からは、瑠衣斗が浴びるシャワーの音がして、なんだか生々しい。
意識しだすと、ドキドキと鼓動しだす胸の音が、部屋にまで響いてしまいそうな気さえする。
隣で丸まるももちゃんの背中を撫でて、ソファーの上で抱え込むようにして体操座りする。
気持ちを落ち着かせようと勤めてみても、そんなのは無駄だった。
頭の中を、ぐるぐると様々な思いが駆け巡る。
今ここで、瑠衣斗のすぐ近くに居る事が、なんだか現実味が無くて落ち着かない。
永遠に続くと思われていたシャワーの流れる音は、しばらくするとピタリと止まる。
ハッとした瞬間焦り出す気持ちも抑えられずに、重ねた腕に顔を突っ伏した。