いちごいちえ
バタバタと慌てる私に、一瞬目を見開いた瑠衣斗が、吹き出すように笑う。
益々恥ずかしくなってきて、荷物も取り出さずに鞄ごと抱えて立ち上がった。
「くっ…そ、そんな…慌てなくていいぞ」
「そんなんじゃないもん!!シャワー借りるね!!」
口を挟む隙間を与えないよう、まくし立てるようにして言葉を吐き出し、慌ててシャワーを浴びに扉を閉める。
途端に、瑠衣斗の物とは思えないような笑い声が聞こえてきて、耳まで熱くなる程赤くなった。
鼻を掠める洗い晒しの香りに、瑠衣斗を強く感じる。
その相乗効果も相なって、ついには立ち眩みまで起こしそうな程頭に血が上るようだ。
落ち着け、自分。冷静に…冷静に。
必死に気持ちを宥めようとしても、一度加速した気持ちは収まりそうにない。
そんな状態を諦めつつ、シャワーでも浴びて頭を冷やそうと、ゆっくりと服を脱いだ。
途中もしかして瑠衣斗が入ってくるんじゃ…なんて考えて警戒したが、龍雅じゃあるまいし瑠衣斗はそんなキャラではないと思い直し、シャワーを浴びに向かった。
考える事は、やっぱりシャワーを浴びて出た後の事ばかり。
頭からシャワーを浴びてみても、やたら意識がクリアになるばかりで、冷静になると同時に余計に考えてしまう。
どんな態度でいたら不自然に思われないのだろうか、とか、まずどんな会話を振るべき?とか、そんな事ばかりが頭をぐるぐると回る。
考えても考えても答えなんて出なくて、煮詰まる一方。
いつまでもシャワーから出てこないのも変だと思った私は、慌てて考えている事を中断し、体を洗った。
まだ胸はドキドキとしていたけれど、でもそれは、私にとって心地良い緊張感にはまだ変わらなかった。