いちごいちえ
浴室から出て、考えている暇もなく体を拭う。
髪からポタポタと滴る水滴が、マットレスに吸い込まれていく。
身なりを整えた頃、ふと視線を上げた先にあった洗面台の自分と目があった。
紅潮した頬、頼りなく揺れる瞳、鼓動と共に震える指先。
瑠衣斗に恋している自分。
そんな自分を、初めて自分の目で見たようだ。
瑠衣斗なら、嫌じゃない……。
むしろ、瑠衣斗だから嫌なんかじゃないんだ。
るぅだから…私は、るぅがいいんだ。
気持ちを振り払うように、一つ大きく息を吸い込むと、意を決してドアを開けた。
見渡さなくても、すぐに目に入る広い背中。
ソファーにもたれて、少し頭を下げていた瑠衣斗が、ドアの音に反応するようにゆっくりと振り返る。
その瞬間、大きく音を立てた心臓の音に、息が一瞬できなくなった。
「ん?どうした?こっち来いよ」
「…うん」
柔らかい微笑みに、胸が切なくなる。
優しい瑠衣斗の表情に、私は素直に頷くと、吸い寄せられるようにして瑠衣斗に近付いた。
そろそろと近くまで来た私を見上げると、途端に瑠衣斗の目が細められ、眉が寄せられる。
「…べたべたじゃねえか。ほれ、拭いてやる」
手を引かれるがままそれに従うと、ソファーの上で胡座をかいた瑠衣斗の長い足の上に座らせられた。
私の首に掛けられていたタオルを取ると、優しく丁寧に私の頭を撫でるようにして髪を乾かす手付きに、思わず気持ちが緩んだ。