いちごいちえ
「んーじゃ、そうと決まればももの散歩がてら買い物行くか」
「うん」
2人でベッドから抜け出して、並んで洗面を済ませる。
ソファーで伏せた状態のまま、ゆっくりと尻尾を振ったももちゃんを連れて、私と瑠衣斗とももちゃんで部屋を出た。
時間も何も気にしない、穏やかな時。
外に出ると、厚い雲が空を覆っていて、その雲が垂れ下がって落ちてきそうだ。
空気は湿気を含みじっとりと肌に纏わりつくようで、いかに瑠衣斗の地元の環境が過ごしやすかったかを実感させた。
虫の鳴き声も、草木の茂る音さえも、聞こえてこない事が不思議にさえ思えてしまう程だ。
「本格的に降り出す前に、帰りてえな〜…」
「うん〜…なんとか持ちそうな感じもするけどね」
前方を、いつものように歩くももちゃんの後ろ姿を、微笑ましく眺める。
いつものように、片手でリードを握った瑠衣斗と、もう片方の手で手を繋いで歩く。
環境が変わっても、変わらないいつもの光景に、私は胸が暖かくなるのを感じた。
それでもやっぱり、この垂れ込んできた曇り空のように、私の胸がモヤモヤとマーブル模様を描くように渦巻いていく。
それを出さぬように、私は気付かないフリをして足を進めた。
なんだか落ち着かない。
モヤモヤして、息が詰まりそう……。
気付かないフリをしてみても、それは生きたように主張し、だんだんとその存在は無視できないモノへとなっていくようだった。