いちごいちえ
「ももちゃん、待っててね」
「おい、行くぞもも」
近くのスーパーへと到着し、ももちゃんのリードを外の柱にくくりつける。
大きな頭を人撫ですると、背後から瑠衣斗の声が届いてきて振り返った。
「はーい」
人はまだ疎らで、混雑する様子はない。
曇り空のせいか、そんな様子が少し寂しくも感じる。
外がむっと蒸し暑いせいか、スーパーに入ると、ひんやりとした冷気が熱を冷ましていく。
「なんか、2人でスーパーに来ると…いろいろ思い出す」
片手にカゴをぶら下げた瑠衣斗が、なんだか照れくさそうな、罰が悪いようなよく分からない表情でそう呟く。
言われてみれば、2人でスーパーに訪れた日は、思い出すのも赤面してしまうような思い出ばかりな気がする。
それが今、こうして2人で思い出している事が、なんだか可笑しく感じてしまう。
「ふふ…なんか懐かしい」
「笑うなよ…やけに余裕だな」
「違うよ。前じゃ考えれなかったなーって。るぅと付き合う事になるなんて」
チラッと私を横目に見たかと思うと、瑠衣斗はすぐに前に向き直ってしまう。
その横顔は、心なしか不貞腐れているように見える。
…あれ?なんか私、変な事言った?
その表情の意味が分からず、ずんずんと先へ歩いて行ってしまう瑠衣斗を慌てて追いかけた。
「ちょっと待ってよるぅ…どうしたの?」
早足で追い付いて声を掛けるが、瑠衣斗はやっぱり少しむっとしたまま、私に視線を向けようとしない。
え…ええっ?本当になに?
「るぅ?ねえってば」
そんな私の声に、ようやく視線を向けた瑠衣斗は、やっぱりむすっとしたままだった。