いちごいちえ





恥ずかしい。

でも、嬉しいな。



なんだかんだ言って、顔の筋肉は正直に緩む。


さり気なく…ではないけれど、こうして私が周りから押されてしまわぬよう、瑠衣斗が自ら壁になって守ってくれる。



周りよりも、頭1つ分は大きな瑠衣斗は、きっと人垣の向こう側の景色が見えているのだろう。



グラウンドの入り口では、おしくらまんじゅうのような混み具合で、ここを抜ければ中へ入れる。


その時、瑠衣斗の体がグラリと揺れた。




「るぅ、大丈夫?」



「…ん?なに?」



「だーいじょーぶー?」




人の声が重なり、大きな物へと変化する。


そんな中、私の声は溶け込んでいくみたいにかき消されてしまう。


背中から首に回された腕に、ギュッと力が入る。


思わず両手で掴むと、瑠衣斗が背中を折るようにして顔を私の真横へと近付けてきた。



耳元に、瑠衣斗の息遣いを感じ、甘く爽やかないつもの香りが濃く感じる。



こんな状況なのに、不謹慎にもドキドキしてしまう私は、瑠衣斗の事を言える立場ではない。




「…聞こえない」




囁くような瑠衣斗の低い声が、耳元をくすぐる。


背筋に電気が走るように、思わずゾクリとして体を震わせた。


今日は髪をアップにしているせいで、瑠衣斗の唇をダイレクトに感じてしまう。


なぞるような唇が、予想もつかない動きをするせいで意識が瑠衣斗ばかりに行ってしまう。



「俺、今すぐ食べたいモンがあるんだけど」



そんな事を囁くように言うもんだから、私はまた赤くなるしかなかった。
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