いちごいちえ
少し歩いただけで、しっとりと汗が滲み出る。
風はあるのに空気が暑く、肺に入ってくる空気がむっとするせいか、息をするのさえ苦しく感じる。
たわいのない話をしながら歩いていると、もうすぐで瑠衣斗のマンションに到着だ。
真っ黒な厚い雲に覆われた空は、間もなく昼だと言うのにやたら暗い。
その暗さは、目が覚めた時に見た空よりも、明らかに黒く重みを感じる。
「お…今ポツってきた」
「え、うそっ」
空を見上げた瑠衣斗に釣られるように、同じように空を仰ぐ。
その途端に、私の頬にポツリと雨が落ちてきた。
重みに耐えきれなくなったようにして、それを合図に徐々に雨が降り出す。
「やべっ…走るぞ」
「え?うわあっ」
灰色のコンクリートに染みを作り、どんどんと色を濃くする光景に呆気に取られていた私は、次の瞬間手を引かれるがまま駆けだしていた。
あと少しという所で、降り出してしまった雨にしっとりと濡れ、びしょ濡れではないが全体的にしんなりとしてしまった。
すると、慌てて滑り込んだマンションのエントランスに着いた途端、パラパラと降っていた雨足が、急に激しくなる。
地面に激しく打ち付ける雨粒は、あっと言う間にコンクリートを黒く染め、まるで豪雨のようにけたたましく音を立てて降り注ぐ。
「あぶねー…ギリギリだったな」
「ホント…スコールみたい」
すぐ先には、激しく降る雨で白く煙る道があり、コンクリートからは雨の匂いを運んでくる。
少し濡れた肌が外気に触れ、ひんやりと肌を冷たくした。