いちごいちえ




暗い空に、大粒の雨。


冷たい雨に、胸が激しく鼓動する。



「もも…?冷えたか?」



「えっ?…あ、う…うん。大丈夫」



知らず知らずの内に、体が小刻みに震えていた。


ハッとした時には、覗き込んでくる瑠衣斗に向かってぎこちなく笑う事しかできずに、目がまともに合わせる事ができない。


どうにか震える体を押さえ、小さく息を吸い込む。


胸の鼓動はうるさいくらいで、動悸を起こしているように息苦しい。



「早く帰って、体拭くぞ」



「…うん」



私を見つめていた瑠衣斗は、それだけ言うとまた私の手を優しく引く。


ギュッと力を込められ、それがまるで私の心臓を掴んだようで、体がビクッと震える。



エレベーターに乗っても、頭の中で雨音が響くように反響している。



外に広がる真っ黒な雨雲のような物が、胸一杯に垂れ込むようだ。



目を閉じれば、思い出したくもない何かが鮮明に蘇ってきそうで、それを振り切るようにして爪が自分の手のひらに食い込む程、手をきつく握り締めた。



軽い重力を感じ、エレベーターが目的の階に付くと、並んで瑠衣斗とエレベーターを降りる。



降りしきる雨の音が、どんどん私を無口にしていく。


今にも震えだしそうな体を、無理に力を込めて踏ん張った。




「…傘、持ってくべきだった」



「……だね」




ポツリと言った瑠衣斗の声が、なぜだかやたらと遠くに聞こえた。


それはきっと、激しい雨の音で、瑠衣斗の声がかき消されてしまったからなのだろう。
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