いちごいちえ
背後では、瑠衣斗が動いている気配や音がする。
このまま外に追いやられて、結局また何もできなかったなんて、恥ずかしすぎる。
でも、こうして怪我をしてしまった時点で、瑠衣斗は手伝わせてくれないだろう。
…その前に、私…また足引っ張っちゃうだけだ。
でも座ってるだけじゃ嫌。
ギュッと唇を引き結び、救急箱をしまうとおもむろに立ち上がる。
足が重いが、今は気にしている時ではないと決め、そそくさと再び瑠衣斗の隣へと並んだ。
綺麗に切られた鶏モモ肉が、シルバーのボウルの中でもう既に味付けされている。
「早…もう味付けまで済んじゃったの?」
「ん?うん」
手伝わせてもらえないなら、見ていろいろと勉強しようと思ったんだけどなあ〜。
一足遅かった。
料理本って、書いてある事がたまに分かんない時があるから、こうして見て覚えた方が絶対早い気がするんだよね。
でも、残念ながらその願いは叶わなかった。
「…なに?見たかったのか?」
「うん〜…見てた方が、技とか盗めるでしょう?」
「技って…見習いのコックか」
話しながらも、瑠衣斗は手を休める事なく進めていく。
結局ほとんど途中がすっぽりと抜けているためか、それからの手順を見ていても、何がどうなっているのかさえ理解できなかった。
瑠衣斗がちょこちょこと説明をしてくれながらも、やっぱりよく分からないままで、私は頭を捻りっぱなしだ。
「いつか、ももの手作り食わせてもらお〜」
「…いつになるか分かんないよ」
むくれたままそう皮肉を言ってみても、対して瑠衣斗は私に優しく微笑み返してくれたのだった。