いちごいちえ
「第一号…?」
嬉しいような、恥ずかしいような。
むず痒い感覚が頬を緩める。
好きな人や大切な人に、喜んでもらったり楽しみにしてもらう事が、こんなに嬉しい事なんて。
「他の奴はダメだぞ。俺が一番だ」
つーんとしながら言う瑠衣斗に、ついに緩んだ頬は堪えきれなくなり、笑ってしまう。
普段は口数も少ない瑠衣斗が、たまに見せる子供のような姿に、私は胸を鷲掴みにされる。
瑠衣斗の好きが伝わってくるようで、嬉しいんだ。
しばらく他愛もない会話を挟みながらも、食事は終わる。
結局料理のほとんどを任せてしまった私は、後片付けを買って出た。
それでも、片付ける物なんて少なく、あっという間に終わってしまう。
「なあ、これから何したい?外出てもいいけど」
濡れた手をタオルで拭く私を、ソファーから顔だけで振り向いた瑠衣斗が私に問い掛ける。
「うーん…そうだなあ」
チラリと外に視線を向けると、昼間だと言うのに外は真っ暗だ。
結構な雨足に、今日1日は雨だろうと簡単に予想はついた。
どこまでも暗い空に、遠い日の記憶が微かに脳裏を過ぎる。
意識もしない内に、胸がチクリと痛んだ。
「もも?どうした?」
「ううん。ね、映画とかないの?」
瑠衣斗の声に意識を引き戻されると、考えていた事を掻き消すようにして振り払う。
それでも、朝から感じていた胸の痛みのせいか、その感覚は胸にしつこく残ってしまったように居座っている。
「一応はあるけど」
「じゃ、映画観賞しよう」
腑に落ちていないような瑠衣斗に、無理矢理に笑顔を向けると、足早にソファーへと向かった。