いちごいちえ
「今度、挨拶しに行かなきゃな〜」
「…挨拶?」
穏やかに言う瑠衣斗に、ゆっくりと顔だけで見上げた。
そんな私に瑠衣斗は、柔らかい笑顔を向けてくれる。
そしてそのまま、頬を濡らす涙を、指先で拭ってくれた。
「ももと…一緒に住ませて下さいって」
「………え?」
一気に頭が真っ白になる。
言われた言葉を、ゆっくりと頭の中で繰り返した。
今……なん、て……?
「一緒に住もう。もも」
驚きすぎて、言葉が出ない。
頭の中は、情報を処理する役目なんて果たしていない。
あまりにも突然で、驚きを隠せない私に向かって、瑠衣斗が改まったようにして口を開く。
「ずっと言おうと思ってたんだ。いつ言おうかなって」
そしてようやく、私の中で意識が戻る。
「ひょっとして…前に何度か言いかけて止めた事って、この事…?」
最近の瑠衣斗の不可解な態度は、この事だったのかもしれない。
そう思うと、違う物が胸を熱くする。
「まだ早いかなって…。もう少し付き合ってからにしようと思ってたんだけどな。でも、そんなん関係ねえ」
苦笑いしながら、両手で私の頬を包み込むと、親指で涙を拭ってくれる。
決壊したダムのように、涙は次々流れ落ちる。
そんな私を、瑠衣斗はやっぱり苦笑いしながら包んでくれた。
「返事は?しないつもりなら、後で倍…いや。三倍返しだぞ」
そして私は、返事の代わりに瑠衣斗に思い切り抱き付いた。
瑠衣斗の苦笑いしながらも笑う声に、私の返事はきっと伝わったに違いない。