いちごいちえ
……えっ。
ピタリと動きを止めた瑠衣斗が、眉間に皺を寄せる。
いつまでも鳴り続ける音は、瑠衣斗の携帯の着信音だ。
瑠衣斗の履いているズボンのポケットから、甲高い一定の着信音がクリアに響く。
「るぅ…電話…」
「……シカト決定」
「や…で…でも」
「気にするな」
そう言って、再び私に覆い被さってくると同時に、着信がピタリと止まる。
そして、瑠衣斗が私の首筋に顔を埋めようとした途端、それを邪魔するかのように再び鳴りだす着信音。
でもそれを、瑠衣斗は言葉通り気にする事もなく、私の首筋に唇を押し付けた。
「あ…るぅっ、待って、電話…」
「俺に集中しろ」
「でも、…っあ」
そう言われても、携帯の着信音は鳴り止まない。
集中しようにも、それすらできず、ただ戸惑いながら瑠衣斗を受け止めるしかできない。
鳴っては切れ、鳴っては切れを何回か繰り返した頃、ふいに次は違う音に動きを止められてしまった。
さすがにそれには、瑠衣斗も動きを止め、一瞬にして見事な眉間の皺を刻んだ。
「……嫌がらせか?」
明らかに不機嫌さを隠しきれない瑠衣斗が、本気でイライラしているのが分かる。
その間も、部屋中に玄関のチャイムの音が何度も鳴り響く。
今までの雰囲気が嘘のように、それはそれは見事な瑠衣斗の不機嫌な顔だった。