いちごいちえ




「るぅ…お客さん…」



遠慮がちにそう声を掛け、瑠衣斗を見上げる。


今にも爆発してしまうんじゃないか、と言う程に、瑠衣斗はすこぶる不機嫌だ。


なんとも言い難いが、苦笑いするしかない。


瑠衣斗が今まで、ギリギリまで我慢していてくれていた事は、私が一番知っている。


できれば今すぐにでも、そこから解放してあげたいのに。




「…嫌な予感がする」



「い…嫌な予感…て?」




起き上がり、体を離した瑠衣斗が、無造作に髪をかきあげる。


艶やかな肌に、適度で綺麗な筋肉と筋。


そして、くっきりと刻まれて緩む事のない眉間の皺。



その間も、チャイムが鳴り止む事なく響き続けている。




「あークソっ。すぐ済ませてくる」



「う、うん…」




リビングへと入った瑠衣斗を見送り、体に布団を巻き付ける。


火照った体の熱のせいで、やたらとシーツがひんやりと感じる。


瑠衣斗の香りがして、すっぽり包まれているような幸福感に、頬が緩む。


でもすぐに、今までの事が脳裏に蘇ってくる。



途端に恥ずかしくなり、目を閉じて唇を引き結ぶ。



そうしている内に、何だか外が賑やかな事に気が付いた。



……なんだろう?




ドアは開けられたままで、その声はダイレクトに響いてくる。


耳を澄ましてみると、どこか聞き覚えのある声に身を固めた。



「な〜んだよ〜う!!上がらせてくれてもいいだろ〜?」



「おまっ…近所迷惑だ!!」



え…………。


龍雅!?
< 175 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop