いちごいちえ
「相変わらず、簡単だな〜」
「宗太が扱いが上手いんだろう…」
「当分帰ってこないだろうな」
「全身びしょ濡れは間違いねえぞ」
そんな声を耳にしながら、静かにドアが閉められる音を耳にした。
どうやら瑠衣斗が、寝室のドアを閉めてくれたらしい。
声が壁を隔てて聞こえるが、ハッキリとか聞き取る事ができない。
一瞬、着替えなきゃと思ったが、体が怠くて起き上がる事が億劫に感じる。
このまま瞼を閉じれば、間違いなく寝てしまう自信がある。
そんな事を考えている内に、私はいつの間にか瞼を閉じていた。
穏やかな光に、賑やかな声を聞いた。
どれも明るくて、こっちまで楽しくなってしまうような。
幸せで幸せで、胸がいっぱいなのに、それが堪らなく苦しい。
私に向かって何か言っているのに、それが何かは聞き取る事ができない。
必死に追い掛けてみても、近付く事ができなくて、寂しさに包まれる。
届かない場所にその声はあるんだと分かると、胸が引き裂かれそうな程苦しくなった。
置いてかれたような、独りきりにされてしまったような、まるで小さな子供のように心細い。
お父さん、お母さん…勇磨……。
力無く呟いてみても、誰からの返事もない。
涙が溢れて、潰されそうだ。
「…――もも」
そんな中、愛おしい声が私の名前を呼ぶ。
ハッと目を開けると、涙で滲む視界の先に、心配そうに眉根を寄せた瑠衣斗が、私の顔を覗き込んでいた。