いちごいちえ
有名を言わせない口調に、瑠衣斗がうっと言葉を濁す。
少し引きつったような表情からは、やっぱり慶兄には適わないと伝わってくるようで、思わず笑いが漏れてしまいそうになる。
「何か言いたい事があるんじゃなかったのか?」
「ないっ。ないない」
「で?なんで帰ったと連絡しなかったんだ?」
「な……な、なんでだっけ…なあ〜?」
今日は一段と、瑠衣斗がいじられる日なのだろうか。
きっと、瑠衣斗からすれば、ここに居るほぼ全員が敵に見えているのかもしれない。
そう思うと、どさくさに紛れて私までいじめたくなってしまう。
そんな事言ったら、後が怖いから絶対言わないんだけどね。
「もも〜!!やっと会えたあ〜!!」
「わ…み、美春?」
明るい声と共に、背中に感じた重みに、美春がしがみついてきた事が分かる。
振り返ってみようと顔を横にすると、頬にピッタリと美春の柔らかな頬が重なる。
ギュウギュウと抱きすくめられて、思わずむず痒くなる感覚だ。
「あ!!なっちゃんと、じゅんちゃんに会ってきたよ!!」
「え?…あっ、忘れてた!!お土産渡しに行かなきゃ」
「うん。早く持ってきてだって」
夏希と純平の名前を久々に聞き、大切な事を思い出した。
ビニールに入れた空気でも土でもなく、ちゃんとしたお土産を買ってきている。
ふと瑠衣斗と付き合う事になったと言う報告をしなきゃと思い、ジュリの顔まで浮かんでくる。
どんな反応をするかと想像しかけた所で、慌てて打ち消す。
夏希も純平も、はたまたジュリと並ぶと、なんとなく悪い想像をしてしまうからだった。
うん…間違いなく、三人ともるぅをいじくり倒すんだろうな……。