いちごいちえ




いきなりの発言に、無駄にドギマギしてしまう。


まさか今この場で、みんなが居る中での話だとは、全く予想すらしなかったからだ。



そして、意外にもすんなりと承諾してもらった事に対して、嬉しいやらビックリやらで、なんだか変な感じだ。



「もう住む場所とか決めたのか?」



「いや…まだ具体的には全然なにも」



楽しそうな宗太の声に、顔を上げられない。



嬉しいんだけど、恥ずかしすぎるっ……。



こんな話を自分がする事になるなんて、考えた事もない。


ちょっと前まで、恋愛のれの字すら出てこない程だった事が、夢のようだ。



「ここで一緒に住むのは?あ、それか、俺の所だって空くぞ?」



「や…だから…てゆーか、慶兄のマンションは、学生の身分で住むような所じゃねえだろ……」



「いーんじゃないか?親父の持ち物だし」




……え。


おじさんの…?持ち物……。



「えー!!おじさんあの部屋買ってたんですか!?」



「部屋ってゆーか、マンションな。一応オーナー」




慶兄が龍雅に付け足すと、みんなの箸が止まった。


いつもはポーカーフェイスの宗太でさえ、眉間に皺が寄って驚いているのが分かる程に。



オーナー……。

おじさん、一体何者なんだろう。

ってゆーか、オーナー…オーナー!?



固まるみんなをよそに、少し照れ臭そうに笑うおじさんが、いろんな意味で今までと違ってみえてしまう。


「昔は不動産関係しててね。でも、田舎暮らしに憧れてて、タイミング良く慶衣斗が産まれて、さらにあの物件見つけた時に、思い切って辞めちゃった〜」



そんな私達に向かって、おじさんは笑ってそう答えたのだった。



多分、誰もが口にはしないが、思ったに違いない。


思い切りすぎだろう。と。
< 201 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop