いちごいちえ
慌てて我に返ると、扉を明けようと出てきた扉に向き直る。
でも、腕に力は込められない。
扉の向こうからは、衣服が触れ合う音がし、バスルームへと繋がる扉の音がしたからだ。
あっ……。
「もーもー。早くしろー」
遅かった……。
私…何やってんの。
頭の中で、いろいろ考えているようだったが、良い案なんて出てこない。
冷や汗が頭から全身にかけて吹き出し、今にも倒れてしまいそうだ。
タオル巻いて入る……?
いや、るぅの力に適う訳ない…すぐ剥がされて終わりだ。
「さーんーばーいー…」
「待って!!今から服脱ぐからー!!」
慌てて扉を開け、脱衣場に滑り込む。
瑠衣斗のシルエットが磨り硝子の向こうに浮かび上がり、生々しさに頭がチカチカした。
「俺先に体洗うぞ?」
「う、うん…あの、るぅ…お願いがあるんだけど…」
「なに?やっぱ三倍返し?」
「違うから!!お願い!!私が良いって言うまで、目閉じてて!!」
「……ふうーん…分かったよ。とりあえず、体洗うわ」
少し探るような声音だったが、承諾してくれたおかげで、少しだけ肩の力を抜いた。
瑠衣斗から目を背けるように、私は背中を向けて服に手を伸ばす。
少しずつ空気に触れる場所が露わになっり、それに同調するかのように胸が痛い程脈打つ。
うう……泣きたい程恥ずかしい。
何も身につけていない体を、見られてる訳ではないのに腕で隠す。
そんな姿を想像すると、間抜けすぎて羞恥の極みのように思えてくるから不思議だ。
「るぅ…目、瞑って?開けたら今日家帰るからね」
「…はいはい」
私の言葉に笑った瑠衣斗が、動きを止める。
それを確認した私は、ゆっくりとこの空間を隔てていた扉を開いた。