いちごいちえ
もわっと、纏わりつくような湿度に、石鹸の香り。
全身あわぶくになって背中を向ける瑠衣斗に、一瞬ギョッとしたが、ゆっくりとバスルームに足を下ろした。
扉を閉め、湯船に身を潜めようと掛け湯をしようと身を屈める。
「いい?」
「ダメ!!バカじゃないの!?」
「くっ…おもしれー」
突然聞こえてきた声に、驚いて体がビクリと固まる。
反響してスピーカーのように大きく響いた声に、まさに今寿命が縮んだに違いない。
ザバーっと掛け湯をし、慌てて湯船に身を沈め、丸くなって体を隠す。
そこで、髪をまとめ忘れた事に気付き、更に慌てて手首のヘアゴムで髪をまとめ上げた。
「もういいだろう?」
「イヤ。目閉じたまま体洗って」
「意地悪だな〜。開けるけど」
パッチリと目を開けた瑠衣斗が、肩越しに振り返る。
ひぃ!?
思わず心の声が、顔と動きに出てしまう。
そんな私の様子を眺めていた瑠衣斗が、妖しげに目を細めて笑うと、再び体を洗い出した。
「人の事散々言っといて、自分だけバッチリ見てんじゃん」
「見てないよーっ!!」
見てたかもしんないけど、それは警戒してた訳であって!!
思い切り顔を背けると、浴槽の隅っこで小さくまとまる。
背後では、体を流すお湯の音と共に、白い湯気がまた一段と濃く立ち上ってきた。
なによっ。
本当に意地悪なんだから!!
「もも〜。髪洗って」
「なによーさっきから〜!!……!!!!」
「ん。洗って」
うんざりして叫びながら振り返ると、すぐ浴槽の近くまで来て椅子に座る瑠衣斗とバッチリ目が合う。
濡れて艶やかに光る瑠衣斗の上半身に、言葉を失って固まった。