いちごいちえ
鍛えられた体に、髪から滴る雫がやけに色っぽい。
私の視線に気付いた瑠衣斗が、キョトンとした目で私を見つめる。
「…ん?」
「え…あっ、ううん…なんでも」
「ふーん…ま、いいや。はい、よろしく」
鏡台に向き直った瑠衣斗が、鏡越しに目を閉じる。
そんな様子を確認しながらも、私は恐る恐る湯船から上がる。
じっと鏡越しの瑠衣斗を見つめながら、死角に入るべく瑠衣斗の背後へと慌てて回る。
広い肩幅に、広い背中。
そのすべてが、私をドキドキさせてやまない。
「早くしないと、本当に目開けるぞ」
「い、い、今から洗うから!!」
「くっ…分かったよ」
これは本気だ……。
そう思い、手にシャンプーを取ると、瑠衣斗の髪に触れた。
コシのある髪は、絡まる事もなく、するりと指先を抜けていく。
そして、無駄に泡を立て、瑠衣斗の視界を覆ってみた。
「なんか…目に泡が…」
「目、開けたらシャンプー入っちゃうからね」
「おい、きたねーぞ」
「綺麗にしてあげてますけどっ」
まんまと形成逆転へと持ち込み、悠々と瑠衣斗の髪を洗う。
これが私の、小さな小さな反撃だった。