いちごいちえ
ドキドキする胸を抑える事もできないまま、なんとか時間を稼ごうと瑠衣斗の髪を洗う。
今目を開けられてしまえば、鏡越しに私の姿なんて丸見えだ。
「なあ、もも」
「えっ…な、なに」
突然発せられた声に、ビクリと手を止める。
あわぶくになった頭の瑠衣斗が、目を閉じて笑っているのが鏡越しから分かる。
何を言われるんだろうと待っていると、突然勢い良くシャワーが飛び出した。
「ひぁっ!!…え!?なんで!?」
どうしてるぅがシャワーを…!!
「俺の足元に転がってれば、そりゃなあ」
「あ、え、ちょっと待って待ってえ!!」
「あー。ひたすら目閉じてんのもしんどいな」
「ダメだってばあ〜!!!!」
シャンプーが瑠衣斗の体を伝い、鏡越しから瑠衣斗が目を開けようとした瞬間、私は両手を瑠衣斗に伸ばした。
しっかりと覆った瑠衣斗の両目を、泣きそうな気持ちで死守する。
「…まだ開けてない」
「だからでしょう!?」
もお〜!!どうすればいいの?
手離せないよぉ…。
泣きそうな程焦る私とは対照的に、瑠衣斗が小さく笑う。
そしてそのまま、瑠衣斗の両目を覆う私の手首に、瑠衣斗が手を伸ばした。
同時に、ぐっと力を込めるが、瑠衣斗に適うはずがない。
頭では分かっているけれど、私にはそうするしか逃げ道はないんだ。
「見ないから。どけて?」
不思議な程、優しい声音で言う瑠衣斗の声が、バスルームに反響する。
シャワーを頭から浴びながら、瑠衣斗の手の温もりが、シャワーよりも暖かく感じた。