いちごいちえ
無理に私の手を剥がす事もなく、瑠衣斗が私の返事を待つ。
何も答えれない私は、いつの間にか腕から力が抜けていた。
「意地悪しすぎて、もう二度と一緒に風呂入ってもらえないとか、寂しいしな」
ペタンと座り込み、そのせいで目の前は瑠衣斗の背中しか見えない。
内心、こんなに騒いでいたら、逆に呆れてしまうんじゃないかとも思った。
面倒臭いし、うるさいし…慣れないし。
でも、瑠衣斗がそう言ってくれて、嬉しくて堪らなく安心した私も居た。
「もう…トラウマだよ」
「まじか。俺、ワガママすぎたな」
ゆっくりと離された手から、瑠衣斗の睫毛の感覚が消える。
手首にはまだ、瑠衣斗の手が重ねられたまま、その腕を優しく引かれた。
「やべー。後ろからくっつかれるの、めちゃくちゃ嬉しい」
「…くっつけさせられたんだよ」
瑠衣斗のお腹に回された手に、生々しく瑠衣斗の肌を感じる。
それどころか、頬に、胸に、瑠衣斗の肌がダイレクトにくっついている。
美春や私とは全然違う、瑠衣斗の体。
自分から抱き付いてしまったようで、恥ずかしくもあったが、こうしているのが心地良い。
そっと肩越しに顔だけで振り返った瑠衣斗が、目が合うと優しくふわりと笑う。
シャワーが流れ出る中で、瑠衣斗のシャンプーはすっかり流されてしまったようだった。