いちごいちえ
何も言えないまま固まる私を余所に、クスクスと笑いながら瑠衣斗が再び髪を拭いてくれる。
コロコロと変わる状況に、私の思考は付いていく事を諦めてしまったようだ。
「ちゃんと乾かして寝ないと、風邪ひいたら大変だからなあ」
「せっかくの夏休みだしね?」
「せっかく付き合えたのに、キスすらできないとか勘弁」
「……あ、あぁ…うん、ね」
もうなんだか、付き合う前と付き合ってからの瑠衣斗が、別人に思えてならない。
と言うか、もうすでに付き合う前の瑠衣斗が、どうだったかを思い出さないと忘れてしまいそうだ。
「よし、いいぞ。乾いた」
「ありがとう」
「眠くないか?もう結構時間も遅い」
そんな言葉に、時計を見つめる。
みんなと解散した時間から、結構な時間が過ぎてしまっている。
明日の予定は決まってはいないが、そろそろ寝た方が良さそうだ。
でも……。
本当に寝るのかな。。。
なんて、そんな事を考えない方が可笑しい。
もう私は、抵抗できる自信もなければ、怖いとも思わない。
むしろ、その逆……。
「おい、もも。眠いんだろう?」
「え!?や、あ、ううん元気!!」
「…大丈夫か?」
大丈夫…じゃないっ。
今考えていた事が、瑠衣斗にバレていたとしたら、きっと私は恥ずかしさで引きこもれる。
いつから私、こんな風に思うようになったのかな。
「大丈夫じゃなさそうだぞ。そろそろ寝るか」
笑いながら言う瑠衣斗の言葉に、一瞬息が詰まった。
それを合図に、鼓動が激しくなる。
言葉も発せないまま、私は頷いたのだった。