いちごいちえ
一瞬のうちに、様々な記憶が鮮明に蘇る。
そのすべてが、胸を締め付けるように苦しくなる。
逃げ出したい。見たくない。
体が震えてくる事が、止められない。
「……っ!」
突然グッと手を引かれ、足元がもたつく。
思わずよろめいてしまい、前のめりになった所を、瑠衣斗が強い力で引き止める。
そんな力に更に驚き、慌てて瑠衣斗の胸元にしがみついた。
「帰るぞ」
「る、るぅ?」
私は瑠衣斗にしがみついたまま、慌てて顔を上げる。
か、帰る?帰るって、え?
いい…の?
私の不安を余所に、何を考えているのかさえ分からない瑠衣斗の顔を、じっと見つめた。
無表情にも見えるその顔は、怒っているような、困ったような、そんな表情にすら見える。
「…付き合って…んの?」
そしてそんな声に、私はつられるようにして顔を向けた。
明るい色の、大きく巻かれた髪に、グロスの塗られた艶やかな唇。
黒い大きな瞳に、惜しげもなくショートパンツから出したスラリとした長い足。
りなさんの黒い大きな瞳が、私を捉えていた。
なんで?
なんでここに居るの?
なんでるぅの地元に居るの?
なんで………るぅはなにも言わないの?
「なんでここに…居るの?」
そう言ったりなさんは、射るような目で私を見た。