いちごいちえ
「………。」
蛇に睨まれたカエルのように、私は萎縮してしまう。
思い出される事は、私には十分すぎる恐怖を与えた。
「居たら悪いのか」
「…え?」
「コイツはお前に、何かしたか?」
「……。」
「帰るぞ」
なにも言えない私の代わりのように、瑠衣斗がりなさんを見据える。
いつもよりトーンの低い、冷たい瑠衣斗の声が、頭上といつの間にか押しつけられていた胸から響く。
言葉では言い表せない不安と恐怖が、私を襲う。
感じる温もりは確かなのに、背中からゾクゾクと悪寒が走っていくようだ。
言いたい事よりも、聞きたい事が私にはたくさんある。
私には関係ないのかもしれない。でも、前と状況はあまりにも違っている。
私は、瑠衣斗と付き合っているんだ。
「なんで電話出てくれないの?」
歩き出そうとしていた瑠衣斗が、足を止めた。
でもそれは、私が足を止めたせいでもあり、繋がれた手に引き止められたのだ。
電話…るぅにしてるんだ。
私、何にも知らない。
足を止めてしまった私をチラリと見ると、瑠衣斗が溜め息を吐き出す。
「…コイツと付き合ってるから。お前と話す事はこれ以上ねえよ」
「ホントに…本当に付き合ってるの…?」
「コレ見ても分かんね?」
そう言って瑠衣斗は、私と繋いだ手を上げてみせた。
黒いモノが胸になだれ込み、ぐるぐるとかき回していく。
いつか感じた事のある感覚に、押し潰されるようだった。