いちごいちえ
瑠衣斗とりなさんのキスシーン。
駅前で掴まれた腕。
浴びせられた刃物のような言葉。
冷たい雨。
何も解決していなかった。
何も、進展すらしていない。
ただ時間だけが過ぎただけ。
いつかまた、会う事があるかもしれないなんて楽観的に考えていただけかもしれない。
まさかここで、瑠衣斗の地元で会うなんて、考えた事なんて無いに決まっている。
「だから、こっちの都合関係なく連絡してくんの、もう止めてくれ」
「な…んで…」
「無理だって言っただろ。お前がももを傷付けた時点で」
「それは!!」
「ガキじゃねえんだ。それくらい分かってるだろ」
冷たい瑠衣斗の声が、空気を震わせる。
瑠衣斗の言う事は、子供だって分かる事だ。
でもそれは、りなさんには無理な話なのかもしれない。
恋は目隠ししてしまうから。
必死になる余り、善悪も関係なくなってしまう人だって居る。
周りが見えなくなってしまうから。そして、自分の気持ちを優先してしまう人だって居るんだ。
振り向いてほしくて、気付いてほしくて、手に入れたくて……。
だから、なりふり構わずになってしまう。
りなさんのように。
「お前がどんなに俺の事が好きでも、俺は好きな奴が居るから無理だって言っただろ」
「それは何度も聞いた!!そうじゃなくて」
「じゃあ何だ?人を傷付けてもいいのか?俺はもっと離れてくだけだぞ」
「……。」
りなさんは、私を睨んでいた目を、瑠衣斗に向けた。