いちごいちえ
どれくらい時間が経ったのだろう。
2人で話をしてもらおうとしたのはいいけれど、なんとなく瑠衣斗の家には入れなかった。
瑠衣斗を信じていない訳ではない。でも、正直怖い。
もしも…なんて考えてしまうと、やっぱりそれなりに覚悟も少しはしていないと、今度こそダメになってしまう気がした。
川のせせらぎが、耳に心地良い。
水面に写る月明かりが、形を複雑にされながらもキラキラと瞬く。
見上げたお月様は見事な満月で、青白い顔をして私を見下ろしている。
川を挟んで向かい側には、真っ黒な漆黒の闇が、まるで口を開けて待っているようにすら思える。
灯り一つとないその先を見つめていると、なんだかこの世界に自分1人しか居ないような錯覚に陥ってしまいそうになる。
「寂しいな……」
ポツリと呟いた独り言さえも、ひとりぼっちを更に実感させるように、闇に溶け込んでいく。
私の声に、答えてくれる人なんて居ない。
怖くなかったはずなに。
1人が当たり前だったのに。
寂しくなんかない。って、思っていただけなんだ。
川の流れは力強く、晒した手さえも持って行ってしまいそうで。
刺すような冷たさに、手が痺れる程に水に晒した。
そっと持ち上げて月にかざすと、ポタポタと落ちる雫がキラキラと輝き、まるで宝石のようだった。
なんでだろう。
私、悪い事してないのに、こんなにも胸が苦しいのは何故だろう。
ただ、るぅが好きで…。
好きだけで、誰かを傷付けるなんて考えもしなかった。
自分が傷付く事はあっても、自分以外の誰かを傷付けるなんて、想像もしなかった。
何時の間にか苦しくなった胸を、私はどうする事もできず、ただただまん丸の月を見上げた。
なんだか月が揺れてるような気がしたけれど、揺れているのが月じゃない事にすら、気が付かなかった。