いちごいちえ
「俺がなんだって?」
「!!」
閉められた扉の向こうから、少し掠れた低い声が響く。
まさか、まさに今噂していた人物が現れるとは思っていなかった私は、ギクリと振り返る。
扉は閉まっているが、なんだか威圧的な雰囲気をむんむんと醸し出しているように思えてならない。
いつの間に!?てかいつから?!
「げえ〜。なに、あんた盗み聞き?」
「ちげーよ!!今来た所だよ!!」
「もも〜?はーくんとお祭りいこう!!」
「ダメだぞ隼人。ももは俺と行くんだからな」
「はーくんももと行くー!!」
廊下に響く2人のやりとりに、由良さんがクスクスと笑い出す。
対して私は、やっぱり赤くなるしかない。
3歳の隼人君相手に、ここまで本気で喧嘩しちゃうるぅって……。
夕方には着付けのために訪れてくれた由良さん夫婦と隼人君。
今日はお祭りのせいか、ご機嫌だった隼人君が、今日はまた一段と私にベッタリだった。
そんな隼人君が私にお菓子を食べさせようとした時に、瑠衣斗が隼人君の手からパクリと食べてしまった事が、最初の事の発端だ。
「ももは俺のだからダーメ。隼人にはママとパパが居るだろう」
「ちがうもん!!はーくんのお嫁さんにするのー!!」
「お嫁さん!?ダメだ!!ももは俺のだからダメだ!!」
え〜と…るぅはどこまで本気で言ってんのかな…?
間違いなく、隼人君が結婚できる年齢になる頃には…私、四十代目前なんだけど。
嬉しいような、恥ずかしいような、でもこんな瑠衣斗を知る事ができて、幸せな気分だった。