いちごいちえ
「るぅ…着替えれない…」
気配を感じた瞬間、後ろからギュッと抱きすくめられる。
私の呼びかけに声を出さない瑠衣斗は、答える代わりに更に腕に力を込めた。
苦しすぎる程強く抱き締められ、胸がドキドキと高鳴る。
「る…苦しいよ」
恥ずかしさと戸惑い、ただ固まるしかない私は、抑える事のできない胸の鼓動に、意気が上がりそうだ。
私の首筋に顔を埋めたまま、黙り込む瑠衣斗に抵抗もできなかった。
「今日で、最後なんだな」
すぐ耳元で呟かれた言葉。
そして、ダイレクトな瑠衣斗の唇の動きによって背中が痺れる。
口を開けてしまわぬよう、必死に奥歯を噛み締めた。
「明日…帰る前に、ももを紹介したい奴が居る」
「…え?」
私を…紹介?
言われた言葉に意識がそらされ、訳も分からずに瑠衣斗に耳を傾ける。
「俺ん中でケジメ…みたいなモンなのかな。だから、一緒に会ってくれるか?」
ますます分からずに、返す言葉も頭に浮かばない。
これ以上紹介してもらう人が居ると言う事も予想外だったが、なによりも瑠衣斗の言うケジメと言う言葉が気になった。
でも、聞いてもいいのかもわからずに、私は小さく曖昧に頷く事しかできなかった。
「まったく…ももにはかなわねえよ」
「…え?意味分かんない…」
「分かんなくていいよ」
そう言って小さく笑った瑠衣斗に、何故かホッとする自分が居た。