いちごいちえ
「俺、ここに入ったの2回目なんだ」
「…え?2回目?なの?」
突然の言葉に、素直に疑問を口にした。
確かに、部屋もお風呂もいっぱいあるけれど…るぅの家でもあるんだから、入った事ない場所なんて、ないと思ってた。
大して広い訳でもない岩風呂の中は、湯気がこもる度に瑠衣斗を目隠ししてしまう。
それでも、時折吹く風によって、辺り一面の湯気をどこかへと散らしてくれる。
「そ。初めてはももと。2回目も、ももと」
「じゃ…あの時が初めてだったの?」
「そうだな。なんかココは、好きな奴と一緒に入りてえなーなんて思ってたから」
穏やかに笑った瑠衣斗に、胸がキュンと縮まる。
言われた言葉の意味と、初めて知ったその理由。
意地悪ばっかりの瑠衣斗だけど、いつもその裏返しなんだって後から気付かされる。
照れ屋で不器用な瑠衣斗なりの、本心を隠した言葉なんだ。
「それに、俺1人でこんなトコに入っても、寂しいだけだろう」
確かにそう…だけど。
でも、瑠衣斗のそんな気持ちが知れて、嬉しかった。
お風呂なんてたくさんあるはずなのに、お化けを怖がる私を、あの時瑠衣斗は気にしてここに連れてきてくれた。
他のお風呂だって、間違いなく気が紛れる程の立派な物だったのに、ここに連れてきてくれたんだ。
――好きな奴と一緒に……。
やっぱり後から知る、瑠衣斗の本当の気持ち。
その気持ちが嬉しくて嬉しくて、瑠衣斗を好きになって良かったって私は思うんだ。
「もっとこっち来いって。んな隅っこに居るなよ」
私を見つめる瑠衣斗が、ぶっきらぼうだけど少し照れ臭そうにそう言う。
そんな瑠衣斗に、私は自然と微笑みを浮かべていた。