いちごいちえ
「はあ…なんかあっという間だったなあ」
部屋に着くと、テーブルに肘をついてミネラルウォーターを飲んだ瑠衣斗が、息を吐きながら溜め息のように言う。
首にはタオルが掛けられ、まだ生乾きの髪は濡れているせいか、いつもよりも艶やかに見える。
「そうだね…寂しい?」
「…寂しい?…それはねえな」
眉を寄せ、怪訝な様子で答える瑠衣斗に思わず笑ってしまい、ひとまず風邪をひいたらいけないと思い、瑠衣斗の首に掛かるタオルで頭を拭いてあげる。
「帰っても親父ら向こうに居るし…慶兄だってさすがに苦笑いしてたしな」
ブツブツと言いながらも、私に髪を素直に拭かれる瑠衣斗に、やっぱり頬が緩む。
引っ越すために荷物をまとめなくてはいけない慶兄に、おじさんとおばさんは渋る慶兄を無理やり納得させ、結局一緒に付いて行ってしまったのだ。
その時の光景を思い出すと、やっぱり笑いが込み上げてきそうになる。
「寂しいんだよきっと。もっと会えなくなっちゃうし」
「確かにそうだけどな…でも、帰省した息子に留守番させるか?」
「それは…ねえ?…あ、向こうに帰ったら、るぅの家に泊まってったりするのかなあ」
変に返す言葉も見当たらずに、話をそらす。
わさわさと髪を拭かれていた瑠衣斗が、私の言葉にピクリと反応する。
不思議に思いながらも、私は手を止めなかった。
「え…まじか……しまった。やべー考えてなかった…あいつらなだけにあり得るな…」
「る…るぅ?」
ポツリポツリと独り言のように呟く瑠衣斗を、恐る恐る手を止めずに覗き込む。
眉間に皺を寄せた横顔があまりに真剣で、とうとう私は手を止めて吹き出してしまった。