いちごいちえ
嬉しそうに笑顔で写るりなさんに、思わず見入ってしまう。
まだ幼さの残る瑠衣斗を、私は知らない。
入学式での集合写真では、まだまだあどけない姿の瑠衣斗は、髪が黒かった。
誰にでも、過去があって当然。
そんな過去があるからこそ、今の自分があるのだし、過去は変えられないし手には入れられないんだ。
生徒の人数は私からすれば、物凄く少なく感じる。
だからなのか、その全員の写る写真が、たくさんある。
もちろん、瑠衣斗も大輔さんも、りなさんも。
何人か顔を見たことのある人達も写っていて、やっぱり瑠衣斗は睨み付けていて。
そしてりなさんは、どれも瑠衣斗と共に写る写真は、笑顔だった。
「りなさん…可愛いね」
「そおか?性格は男より男前だぞ」
ホントはりなさんの話題には触れたくないのに、思わず言ってしまう。
きっと瑠衣斗だって触れてほしくないと思うのに、どこを見ても写っているりなさんに、私は言葉にせざるを得なかったんだ。
何も触れない事こそが、あまりにも不自然に違いないから。
「そうかもね。すごい根性あるよね」
「その根性を別に向ければ、あいつも少しはももみたいに頭良くなったと思うがな」
「え…あんまり嬉しくないし…私がそれしか取り柄がないみたい」
「…なんてね〜?」
「もうっ!!」
まだ普通には、過去の話のような思い出話にはできないけど。
でも、いつか笑って、あんな事もあったね、って話せたらいい。
瑠衣斗の思い出に、私が残るように。
そして将来、2人で笑って話せるように。
「あ、橋田先生だ。良い先生が担任で良かったね」
「…あいつはただのお節介ヤローだよ」
そう言った瑠衣斗の口調は、とても優しかった。