いちごいちえ
荷物をまとめ、大きな屋敷を見渡す。
来たときはバタバタと慌ただしかったのに、こうして去る時はなんともさっぱりとして感じてしまう。
ももちゃんにいきなり襲われた時を思うと、何だか懐かしくも感じてしまうんだ。
「よーし、行くか。由良の所でももを引き取ってから、行くところ寄ってから帰るから」
「うん。行こうか」
瑠衣斗が車に荷物を積み、運転席のドアから顔を出して私を呼ぶ。
笑顔で返事をし、もう一度瑠衣斗の育った家を見上げ、断ち切るように車へと向かった。
「さて、出発しますか」
「よろしくお願いします」
シートベルトを締めながら、瑠衣斗が笑顔で私を見つめる。
日数にすれば、長いようであっという間だった期間ではあるが、どれもとても濃い日々だった。
大きな夕陽や、平等に降り注ぐ雨。土の香りに木漏れ日。
虫やカエルの鳴き声に、草木の茂る音、川の音。
大きなお月様に、こぼれてきそうな星屑達……。
張り裂けそうな程の胸の痛みに、溢れ出しそうな程の愛おしさ。
そのどれもが、瑠衣斗と過ごした時間に感じた全て。
しっかりと焼き付けておこうと視線を巡らし、胸がキュッと切なく鳴いた。
お邪魔しました……。
心の中で呟くと、車がゆっくりと動き出した。
青々とした田んぼの苗が、もうすっかり夏の日差しを向ける太陽の光に向かって、背伸びをしている。
日差しがキツいが、窓を開けると涼しい風が舞い込んできて、新鮮な美味しい空気を胸一杯に吸い込んだ。
大きな神社と、大きな瑠衣斗の家が遠ざかり、切なさに胸が苦しくなっていく。
瑠衣斗も私も、口を開ける事はなかった。