いちごいちえ
すっかり見慣れた町並みも、こうして見ると全てが私を切なくさせていく。
少し離れて見える所に、お祭りの会場が見え、やっぱり寂しさが募る。
忘れないように、いつでも思い出せるよう、しっかりと見ていたいのに、気持ちが邪魔してうまくいかない。
時間がゆっくりと流れるように感じた町並みは、今日は私を現実の世界へと戻すように感じられる。
「着くぞ。あんまり長居はできないけど、ごめんな」
「…うん」
きっと瑠衣斗は、私の気持ちに気付いているのかもしれない。
でも確かに、これから時間をかけて帰るのだから、あまり長居もできないのは本当の事だ。
駐車場に車を停め、もう何度も通った由良さんのお店に足を踏み入れる。
今日も入る前から、たくさんの人でごった返していた店内は、瑠衣斗と私の登場で和気だつ。
そんな中、忙しいに違いない中でも、由良さんが笑顔で駆け寄ってくれた。
「おはよう、ももちゃんに瑠衣。あ〜…もう帰っちゃうんだねえ」
「おはようございます。…はい、本当にお世話になりました」
「いいのよ!!そんな堅いこと言わなくても!!私も付いてっちゃいたいな〜」
本気で付いて来てしまいそうな由良さんの言葉に、自然と微笑が零れる。
向こうでも会えたら、嬉しいな……いつか遊びに来て欲しいな。
「店があるだろうが。また帰ってくるし」
「分かってるし!!それにあんたじゃなくてももちゃんに言ってるの!!」
「なんだよ。俺はオマケか」
「あら、やっと覚えた?ソレ」
いつものようなやり取りに、私は笑ってばっかりだ。
でも、このやり取りも見れなくなると思うと、楽しいのに何だか涙が出てきそうになる。
そんな中、突然聞こえてきた大きな声に、思わず瑠衣斗と共に振り返った。