いちごいちえ
「んじゃ、またな」
私の手を握ると、呆気なく瑠衣斗が背中を向けてしまう。
引かれるようにして足を踏み出すと、慌てて後ろに向き直った。
「お元気で!!本当にありがとうございました」
私の声に反応するように、店内のあちこちからも声が上がる。
できるだけ最後まで見ていられるように、私は店を出るギリギリまで手を振り続けた。
胸が締め付けられるように苦しかったが、笑顔で別れたくてそれを飲み込んだ。
なんだか隼人君が泣き出しそうな顔をしていたが、一生懸命我慢して手を振ってくれている様子に、扉が閉まる直前には目の前が滲んでいた。
「泣き虫だなあ」
「…へへ、ホントにね」
最初はどうなるかと思っていたけど、本当に来て良かった。
町の人達はみんなあったかいし、なによりも素敵な人達すぎた。
そして、こんなにも胸が暖かくなるなる別れは、初めてだから。
「俺が地元離れる時と、大違いだ」
そう言ってクスクス笑った瑠衣斗の言葉に、涙が自然と溢れた。
私に向けられた瑠衣斗の表情が、あまりにも優しくて。
優しく引かれるようにして車に乗せられると、瑠衣斗ももちゃんを後部座席へと入れてから運転席へと乗り込み、微かな振動と共にエンジンが掛かる。
明日からもうみんなと会えないと思ってみても、切なくはなるが実感が湧かない。
手の中にある小さな手提げ鞄と、隼人君からの小さな贈り物。
私はそれを、両手で大切に包み込んだ。