いちごいちえ
「さてと…行くか。少し歩くぞ」
瑠衣斗の言葉に頷くと、ドアを開けて車から降りた。
運転席から降りた瑠衣斗は、私の方へと回り込むと、後部座席を開けてももちゃんを出した。
赤いリードを付けてもらう様子を眺めていると、ふいに瑠衣斗が視線を上げる。
「もも、花束取ってくれるか」
「うん」
言われたままに、後部座席に置かれていた花束を取ると、リードを付けられたももちゃんが道案内をするようにして歩きだそうとする。
その様子に、何度かももちゃんも来たことがある事が伺える。
軽快なキーロックの音が響き、花束を手に瑠衣斗の横に並ぶと、瑠衣斗がリードを持っていない手で私の手を握り込む。
ずっと、なんで由来さんから花束を受け取ったのか疑問ではあったが、気にしている余裕もなくここまで来てしまっていた。
由来さんから花束を受け取ったと言う事は、きっと由来さんも知っている人に違いない。
そして、ヨネさんと瑠衣斗の会話。
きっと…いや、大輔さんもヨネさんも、知っている人だろう。
それでも私には、何の想像もつかなかった。
階段までやって来るが、どうやら階段が終わった後は奥に続くらしく、やっぱり先が見えない。
木々が連なり、アーチのように階段を囲う。
綺麗に手入れされていて、コンクリートの階段には落ちてきたばかりの新しい落ち葉が風に揺れるだけだ。
森の中のように、まるで森林浴のように空気が澄んでいてヒヤリと気持ちがいい。
高い声を張り上げたような鳥の声が、遠くから聞こえる。
あんなにうるさかった蝉の鳴き声さえも、なんだか遠くから聞こえて、すごく静かに感じた。
土の香りが濃くなった気がして、私はふとある景色を思い出した。