ぶす☆カノ


別に、声をかけてはくれなかったし、別に頭を撫でてくれた訳じゃないけど。



……それでも、全然良かった。十分だった。

ようやく落ち着いてきて、顔を上げる。

私は気がついた。



内山さんが、いない。

教室に帰っちゃっただろうか。



たしかに、時間を確認すると、あと15分で授業が始まる。

帰るのも無理ないか……



なんでか私はちょっと肩を落として、教室に戻ろうとした。



「ほらよっ」



頬に冷たい何かを感じ、びっくりする。

振り返ると、オレンジジュースを片手に持っている内山さんが。



「やる」



私に差し出す。

なんだか、内山さんのにっとした笑顔を見て、ちょっと素直になれる気がした。



「いいの?」

「ん」

「別にいらないけど。

……ありがとう。今度また飴あげる」

「素直じゃないな。

お前の飴、なかなか旨い」



にっと笑って、私はオレンジジュースを受けとる。

ぱかっといい音を鳴らして、美味しそうなみかんの甘酸っぱい匂いが漂う。



笑顔も広がる。



───泣くよりは、笑ってるほうが楽しい。

本当だね?
凄く楽しいし、幸せだよ。



私はオレンジジュースを口に含んだ。

匂い同様、甘酸っぱい味だ。

そして、ちょっと時間は経ったけど、少し冷たさも感じた。


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