ぶす☆カノ
ちょっとの幸せ
その日の帰りは、よく通うパン屋さんによることにした。
今日は、雨でグラウンドが使えないから、早く帰れるんだ。
あ、内山さん。
何にも言わないで帰ってきてしまった。
ふと携帯を見ると
『先帰んなら言え』
……さっきのがあって、ちょっとは仲良く……ならなかったらしい。
なんなんだ。内山さん。ちょっとは優しくなってよね。
そう思いながらも、なんでか口元が緩んだ。
「あいこーっ」
名前を呼ばれ振り返る。
男の、久しぶりなちょっとかすれた安心する声。
「拓真?」
「ん。あいこ、久しぶりに会ったな」
私の幼なじみの拓真。
志望校が同じだったものの、学力が追いつかず、一つランクを落としたのだ。
それにしても……懐かしい。お互い部活で忙しくて、あまり会えなかったからね。
「まあ、学校違うし」
「っるせーよ。頭が追いつかねーの」
拓真の癖。
怒ると、唇がとんがる。