ぶす☆カノ
ちょっとの幸せ


その日の帰りは、よく通うパン屋さんによることにした。

今日は、雨でグラウンドが使えないから、早く帰れるんだ。



あ、内山さん。

何にも言わないで帰ってきてしまった。



ふと携帯を見ると
『先帰んなら言え』

……さっきのがあって、ちょっとは仲良く……ならなかったらしい。

なんなんだ。内山さん。ちょっとは優しくなってよね。



そう思いながらも、なんでか口元が緩んだ。



「あいこーっ」



名前を呼ばれ振り返る。

男の、久しぶりなちょっとかすれた安心する声。



「拓真?」

「ん。あいこ、久しぶりに会ったな」



私の幼なじみの拓真。

志望校が同じだったものの、学力が追いつかず、一つランクを落としたのだ。

それにしても……懐かしい。お互い部活で忙しくて、あまり会えなかったからね。



「まあ、学校違うし」

「っるせーよ。頭が追いつかねーの」



拓真の癖。

怒ると、唇がとんがる。


< 39 / 50 >

この作品をシェア

pagetop