嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】
……でも、なんで?
『(どうして夜錐先輩と灘谷くんが、姿を消すの…?)』
忙しなく動く心臓を整えながら、暫し廊下の壁に背中を預けた。
ばくん、ばくん。
耳元で心臓が鳴っているんだと錯覚してしまうくらい、激しい鼓動だった。
深呼吸を何度かして、私は思考を巡らせた。
……2人にならなきゃいけない、理由がある…?
引き継ぎの話?
いや、それならなにもこんな大事な日にする必要はない。
『(……ダメだ、私にはわからない…)』
いくら考えても答えは見付かるはずもなく、諦めて頭を振った。
疲労を訴える足を無理やり引き摺って、私は備品収納室に向かった。
「―――良かったんですか?夜錐先輩」
「…ああ。でもまさか、灘谷がのってくるとは思わなかったよ」
「だって、俺が勝ちますから。約束…守ってくれますよね」
「当然だ。約束は約束、だからな。……お前は、それで良いのか?」
「はい。俺よりもずっと、頼りになるはずです」
「……どちらに転んでも、俺は嬉しいよ」