嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】
ぽかんと口を開けて呆けている私を余所に、灘谷くんの解説は進んだ。
「事の発端は昨日。夜錐先輩に好きな人がいることが判明したんだ」
……………え?
真偽を確かめようと夜錐先輩に視線を向けると、小さく頷かれた。
……う、そ。
私、告白する前からフラれちゃったんだ…。
灘谷くんにフラれてからまだ3週間弱なのに、こんなことって…!
泣きそうな衝動をぐっとこらえ、私は話の続きを促した。
「それから、俺と花寐先輩で提案した。この、賭けを。ルールは単純だ」
そう言ってどこかからか小さなホワイトボードを持ってくると、灘谷くんは黒いフェルトペンでなにか書き始めた。
相変わらず、綺麗な字を書くなぁ…。
見惚れているうちに、灘谷くんはすでにペンを置いていた。
食い入るように、文字を目で追った。
“山本さんが夜錐先輩の名前を呼んでここに入ってきたら、灘谷の勝ち”
“ここに辿り着けない、もしくは灘谷の名前を呼んで入ってきた場合、夜錐先輩の勝ち”
……てことは、つまり。