嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】
…しかし予想外にも、夜錐先輩はなにも言わない。
私たちの間には、正体不明の沈黙が流れるだけだった。
………あああ気まずい!
どうしよう、と悩みだしたところで夜錐先輩がおもむろに口を開いた。
「…頑張れと、言ったな」
私の発言を確かめるように、その声はゆっくりと問い掛けた。
もちろん嘘を吐くのもおかしな話だったから、私は素直に頷いた。
『(……どうしたんですか、先輩)』
固まったまま動かない夜錐先輩を心配していると、チャイムが鳴った。
ちょうど灘谷くんが言っていた30分後が、やってきた合図だった。
ま、まずいっ!!
夜錐先輩がここにいたら、会議が始められないんだった…!
なんのためにここに来たのよ、私!
灘谷くんだけじゃ、ダメだ。
早く夜錐先輩を連れ戻して、会議を進行させなくちゃ…!
『先輩、早く戻りましょう!会議が始まってます!』
「え?」
『ほら、早く行きましょう!』
ガシャンッ!と煩い音を響かせてを立ち上がったのと同時に、呼吸が止まりかけた。