嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】
…………えっ?
「行かなくて、良いから…」
耳を塞ぎたくなるくらい切ない声に、胸がぎゅうっと苦しくなった。
…なにが、どうなって。
私は夜錐先輩に、抱き締められているんですか?
『せ、先輩!?なん、なにっ、行かなくて良くはっ…!』
しどろもどろに話す私の頭は、すでに爆発寸前だった。
夜錐先輩の腕が私の背中に回っている感触が、まるで夢のように感じた。
私はというと、両手をどうすることもできずふらふらとさ迷わせていた。
……端から見ると、ゾンビ少女を抱き締めている好青年って風に見えるんじゃ…!?
「………山本、さん」
『は、はい!』
結局私は、ゾンビ少女の姿勢を崩すことができなかった。
ゆらゆら。
夜錐先輩に触れたいと心が疼く中、拳を握りしめてその衝動に耐え抜いた。
だって、夜錐先輩は…
「俺は―――山本さんが、好きだ」
そうそう、私のことが好きで……………って、え?
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?!?!?