嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】
いや、いや!
ええっ!?
わた、わたた、わたし、私のことを……夜錐先輩が、好き…?
信じられない出来事を処理しきれず完全にフリーズしていると、夜錐先輩が小さく笑ったのが見えた。
「本当に気付いていなかったんだね、山本さん」
優しく細められた瞳が見据えるのは、私だけ。
その蜂蜜のように輝く明るいブラウンの瞳に映っているのは、私だけ。
『…………私っ…うの、みに…しちゃい………ます、よ……?』
こらえきれなかった涙をポロポロと零しながら、私は夜錐先輩の背中に腕を回した。
触れたかった。
会いたかった。
夜錐先輩も同じ気持ちだって、私は疑いませんからね?
今からじゃもう、キャンセルなんて受け付けませんよ…?
肩を小刻みに震わせる私を静かに抱き締めて、夜錐先輩は吐息を零すように耳元で言った。
「好きだ、本気だから―――優梨は?」
耳朶に残る世界一甘い響きに顔を歪め、私は肯定することも忘れて泣き続けた。