嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】


「ああ、俺が落として割った。不注意だったが、仕方ない。今すぐ片付け―――」


『わ、私が割りました!!』


「……………はっ?」



意味がわからず首を傾げると、今までおどおどしていた彼女は急に目の色を変えた。


こちらが息を呑むほど、鮮明に。



『…学級委員の方、ですよね…?以前、朝会でお見かけしました』


「あ、あぁ」



なにを言い出すんだ、急に。


意図が掴めず困惑していると、彼女は慌てて言葉を付け足した。



『わ、私!先輩のスピーチ聞いて、良いなぁって思いました!』



スピーチ、とは。


今年度の学級委員が全て決定した後に、全生徒の前で就任式が行われた。


その時、学級委員代表としてスピーチを任されていた。


話した内容は、なんだったか。


思い出せないことから、おそらく“今年も頑張ります”をゴールとした稚拙な作文だったはず。



『素敵、でした!私、感動しちゃって…!』




感動?




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