嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】
…その視線が俺だけに向いている、これでもう満足だな。
「…いや、なんでもないよ」
自然と口角を吊り上げてそう返せば、優梨は何故か顔を赤くして目を逸らした。
「優梨?」
『…ま、真尋先輩…ずるいです』
「……は?」
『~~~っ、その笑顔!わ、私以外に見せたらっ……見せ、たら……えっと………委員長やめますからね!!』
これでもかと赤く染め上げた顔を背け、優梨は会議室に向かってパタパタと走っていった。
「………ははっ」
どうやら俺は、自分で思っていた以上に彼女から愛してもらえているようだ。
…変なことを疑った、お詫びに。
甘いキスでも―――おひとつ、いかかですか。
『っ!い、いりまっ…………くだ、さい…』
そう言う彼女が、目蓋の裏に浮かんだ。
―――これは遠い、あの日よりずっと後のこと。
【了】