メルト・イリュージョン
「ジーン……」
薄い皮膜に覆われているような、漆黒のベールに包まれて、彼はそこにいた。
まるで、ゆりかごの中で眠る赤子みたいな安らかな寝顔で、ソファに横たわっている。
「……ジーン…」
もう一度、彼の名を呼ぶ。
私は、震える心を、その衝動を抑える事が出来なかった。
あの時と何ら変りない、漆黒に縁取られた容貌。
伏せられた目蓋の奥には、永遠の無邪気な少年の心を持つ、ビードロの輝きがあるのを知っている。
眉間から鼻筋にかけての隆起が、非の打ち所がないくらいに整っていて、その美しさに思わず自分のクオリティの低さを呪った。
もし、自分が彼みたいな完璧さを装う事が出来たなら、きっとこんな苦労はしないだろう。
規則的に上下する胸元が、その熟睡の深さを表している。
──名残惜しいけれど、彼との邂逅の時間に浸るのはここまでだ。