メルト・イリュージョン
「……そうだけど……ふあ…あぁぁ…‥」
緊張感の欠片もない大欠伸をかまし、彼は目にかかる前髪を無造作にかき上げる。
薄手の黒いTシャツから覗くたくましい二の腕が、彼の成長した『男』を感じさせた。
「…あ、あの…私…決して怪しい者じゃなくて……」
油断していると、そのまま見入ってしまいそうになる衝動を必死に抑え、私は苦労して手に入れたそれを突き出す。
「こ、こう言う者です…」
「……C、IA?」
毛ほども興味なさそうな口ぶりで、彼は手帳に書かれている文字を義務的に読み上げる。
「CIAの人間が、どうしてここに……?」
「じ、人材調査です。我が組織に相応しい人物がいないかどうかをチェックするのが、私の役目で……」
一週間かけて考え抜いた理由を、私はポーカーフェイスを気取って無事に言ってのけた。
爆発しそうに高鳴っている心臓のリズムが、今にも相手に聞こえるんじゃないかと気を揉んだ。