メルト・イリュージョン


「それで、わざわざこんな所に…?」

流石に、多少訝しむ態度を見せる彼だったが、それ以上手帳を深く観察しようともして来ないのに、私は内心安堵の溜め息をもらした。


良かった…もし、手に取って見られたりでもしたら……



「…ねぇ、そこの水取って」

「……え?」

すると、突然、何の脈絡もなくそんな用件を頼まれて、私は瞠目する。


「それ、そこに転がってるペットボトルのやつ」

「…え?え?」

私から見ればただゴミの山だけど、彼からすればそれは立派に違いが分かるものらしい。

頭の上にクエスチョンマークを浮かべる私を急かすように、彼は床の一点を指差す。


「…え、と…これ……?」

「そう、それそれ」

たくさんの砂や砂利の中から、一粒の宝石を見つけ出すのは難しい。


まさにそんな難攻不落の状態から、やっとの思いで彼が指し示す物を発見した私は、それに手を伸ばした。


……と言うか、自分で取ればいいのに。


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