メルト・イリュージョン
「…まぁ、いいや。とりあえず、お腹空いたから何か適当に作ってよ」
「……はい?」
全くと言っていいほど唐突に、生欠伸を噛み殺して、彼はそんな事を言って来た。
「え…あの…‥私が…ですか?」
当然だと言わんばかりの真顔で頷かれ、私は言葉を失う。
「あ、あの…でも…‥」
「キッチンは好きに使っていいよ。確か、冷蔵庫に卵とベーコンと小麦粉があったはず」
戸惑う私を置き去りにして、話は勝手に進められる。
どう言う仕掛けになっているのか。彼がノートパソコンのキーに何気なく触れただけで、室内はやっと真昼らしい明るさを取り戻した。
眩しさに目を細め天井を見上げると、寂れたガソリンスタンドにはどう見ても不釣り合いなシーリングファンが、爽やかな微風を巻き起こしていた。