メルト・イリュージョン


「あ、ごめん。塩こしょうが効きすぎてたかも」

目を真っ赤にして苦しむ私とは対照的に、平然とした顔つきで皿の上の目玉焼きをどんどん消費していく彼を見て、私はとある重大な事柄を思い出した。


そうだった。確か、彼は……


「オレ、味オンチらしいんだよね」

──最強の味覚オンチだった。


「……み…水…」

図らずも、強力な爆弾を投げ込んでくれた彼に、私は手を伸ばして助けを求める。


「はい」

「あ…ありが…」

そのお礼の言葉を言い切る前に、口内の塩辛さに耐えられず、差し出されたペットボトルの水をがぶ飲みする。

まろやかな口あたりの水が、喉ごし良く体内に染み渡った。


「大丈夫?」

「…な…なんとか……」

ゼェハァと肩で息を吐き、口許を拭う私を見て、一応彼が気遣うように問いかけてくる。


でも、せっかく彼が作ってくれた手料理。残すわけにはいかない。


そう決意し、再び目玉焼きを口に含んだ私は、ふとさっきから気になっている事を一つ、聞いてみることにした。


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